こんにちは。ハピネコ(@happyneconyc)です。
TVでは「新参者」で知られる、加賀恭一郎シリーズ10作目の「祈りの幕が下りる時」。加賀恭一郎が登場する最後の小説とされています。
この「祈りの幕が下りる時」は、東野作品で初めてラストで号泣した小説です。あまり推理小説で号泣することは無いのですが、犯人の動機が単純なものではなく、そこにものすごい深い愛情を感じられ、切なすぎるストーリーでした。
ネタバレにならない程度に作品を振り返ってみます。
Contents
東野圭吾「祈りの幕が下りる時」 あらすじ & 情報
滋賀県在住の女性が東京のアパートで遺体となって発見される。女性は幼馴染の演出家を訪ねるために上京していた。
そして近くで起きた火事と焼死体との関連を疑う加賀刑事のいとこ、松宮刑事。
遺体が見つかった部屋のカレンダーには日本橋にある12の橋の名前が毎月書き込まれていた。それを知った加賀は動揺してしまう。彼の疎遠だった亡き母が残した遺品にも同じ書き込みがあったからだ。
それは加賀が警視庁から日本橋署に移った理由でもあった。
- 文庫本発売時期:2016年9月 / 講談社文庫
- ページ数:448ページ
- ジャンル:推理小説(加賀恭一郎シリーズ)
この1冊で様々な家族のあり方が描かれる
もともと加賀恭一郎シリーズは、家族を描くことが多い気がします。「麒麟の翼」や「赤い指」でも、家族のあり方が問われるストーリーでした。
「祈りの幕が下りる時」では、ひとつの家族だけでなく、それぞれに事情があるいくつかの家族が描かれます。
今回のメイン・キャラクターである演出家の博美とその父親、そして遊び歩いて家を出た母親。この家族が軸になってストーリーが展開していきます。
うつ病を患い離婚し孤独死した加賀の母親。それを許せずに一人で死んでいくことを約束していた加賀と父親。
母親の遺品と今回の事件の証拠品に繋がりがあることから、今まで加賀が個人的に追っていた母親の謎も解けることになります。
松宮刑事と2人で暮らす元ホステスの母親。早くに事故で亡くなった、当時別の女性と既婚者だった父親。そして加賀はその母親の甥にあたります。
いままでの加賀恭一郎シリーズでは、これほど深く加賀刑事の家族に踏み入ったことはありませんでした。なぜ加賀さんが日本橋にこだわったのか、この本でやっとわかります。これほど壮大で重い背景がある理由に繋がっているとは、今までの加賀シリーズでは想像もしませんでした。
家族のかたちはいろいろで、近くにいたいのにいることができない、見守ることしかできない、という辛く切ない家族が描かれ、その切なさに胸を打たれます。
著者の東野さんは、心に響かせる家族の描き方が本当に上手だと思います。
事件のキーワードは数十年前に遡る
東京のアパートで殺害されたのは、演出家である博美と中学の同級生だった町谷さんでした。町谷さんの営業先の施設に、博美の母親らしき女性が入所し、身寄りがなかったことから、博美に東京に会いに行き、事件に巻き込まれてしまいました。
この事件は、中学生だった博美の家族に何があったのか、その後のそれぞれの人生はどんなものだったのか、がキーワードになってきます。
そして、それが孤独死してしまった加賀さんの母親とも交差していたことがわかります。しかも加賀は今回の容疑者である博美と顔見知りでした。しかしそれは偶然ではなく、実は加賀の母親とも繋がりがあったからなのでした。
ストーリーの中で何度か繰り返されるのが、偽装死。数十年前の偽装自殺からはじまり、大切な人を守るための偽装死が繰り返されてしまいます。
さすが加賀恭一郎!な視点で解決への糸口に
遺体が見つかったアパートは越川という男が契約していましたが失踪。近所で同時期に見つかったホームレスの焼死体との関連を疑う松宮刑事でしたが、焼死体のDNAと、アパートに残された歯ブラシなどから採取したDNAが一致しないことから、関連が無いと思われていました。
しかし、そこはさすがの加賀刑事。
操作を撹乱するためにDNAがすり替えられた可能性を探るよう、松宮刑事にアドバイスします。
その勘はズバリ的中。それを元に捜査が進み、最後には解決に導きます。
加賀恭一郎の今後は・・・?
ストーリーの終盤で加賀刑事は日本橋署から警視庁へ移動になることがわかります。そのため、「新参者」としての加賀刑事は幕を閉じた、ということでもあるようです。
今回の話で、加賀さんの父親の看護師だった登紀子さんが以前よりも頻繁にでてきます。捜査に協力してもらうために博美の元へ連れて行ったり、フォトグラファーである登紀子さんの弟にも協力を依頼します。
そして最後で、松宮刑事が加賀さんの母親に関する大事な手紙を「まずはあなたに読んで欲しい」と、登紀子さんに渡します。登紀子さんが加賀家にとってすでに大事な人であることが伺えます。
ずっとクールで一人だった加賀さんと登紀子さんの今後が気になります。もしかしたら新刊で何か書いてあるのかな・・・・?
まとめ
この本は映画化もされましたね。本を読むときには自分の頭の中でビジュアル化したいため、映画はいつも本を読んだ後に見るようにしていますが、映画もほぼ本に忠実に作られていて、本と同様、号泣ものでした。
もちろん殺人はあってはならないことですが、これほど犯人に同情をする小説も初めてです。
ちなみに2019年7月に発売されたばかりの新刊は「希望の糸」というタイトルで、松宮刑事がメインとなり、加賀刑事は脇役で出てくるようです。本屋さんに探しに行ってこようと思います。
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